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奈良地方裁判所葛城支部 昭和38年(ワ)74号 判決 1966年6月17日

原告 能村金次

被告 西嶋繊維株式会社

主文

被告は原告に対し金一四八〇、六三〇円及びこれに対する昭和三八年一〇月一九日以降完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告において金三〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、被告は原告に対し金一四八〇、六三〇円及びこれに対する本訴状送達の翌日から完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告らの負担とするとの判決並に仮執行の宣言を求めその請求原因として

一、被告西嶋繊維株式会社は靴下製造業を営む株式会社であり訴外村尾安弘は右会社の従業員で販売及び会計事務等の業務に従事しているものである。

二、右会社は昭和三五年一二月別紙為替手形目録の如き為替手形二通を振出したのであるが右手形二通はいずれも偽造であるとして支払を拒絶された。これは右村尾が同月七日頃被告会社事務所において被告会社代表者訴外西嶋栄一に無断で右会社の為替手形用紙に右会社及び右西嶋栄一の記名をなし右会社印及び社長印を押捺して更に別紙目録記載のとおり右要件を記載したものである。そして右村尾は右行為について有価証券偽造罪として奈良地方裁判所葛城支部において懲役一年執行猶予三年の判決を受けこの判決が確定した

三、原告は本件手形中別紙一の手形は同月一〇日頃別紙二の手形は同月二三日頃訴外石田太良を介して手形割引のため右村尾より振出交付を受け手形割引をなし右各手形金を支払ったのである。その際原告は本件手形が偽造であることを全然知らなかったのである。

四、原告は結局右手形金合計金相当の損害を蒙ったものであるが右損害は右村尾が本件各手形を被告会社代表者に無断で振出したことによるものであり、更に右村尾は株式会社の会計の業務に従事し、手形振出の補助的行為もその職務の内容であるから原告の右損害は被告会社の業務の執行につき加えられたものであって被告会社は民法第七一五条に基く使用者としての責任を負担すべきものである。

<省略>。

被告訴訟代理人は原告の請求はこれを棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め答弁として

一、被告会社は、原告主張の手形二通を振出した事なく右は村尾安弘の偽造に係るもので之れに因り同人が有価証券偽造罪で起訴された事は原告の主張の通りである。

二、原告主張の第三項は不知第四項は否認する。

村尾は本件手形の外にも十数通の手形を偽造して居り之れは同人及び石田太良等と策謀し一連の犯罪行為を犯したものであって被告会社の業務とは全く関連なく被告会社に責任はない。

<以下省略>。

理由

別紙目録記載の原告主張の手形二通(甲第一号証の一同第二号証の一)はいずれも訴外村尾安弘が昭和三五年一二月七日頃被告会社事務所で被告会社代表者に無断で為替手形用紙に被告会社及びその代表者の記名をなし右会社印及び社長印等を押捺して各要件の記載をなしたので右村尾は右行為について、有価証券偽造罪として原告主張の如く処罰されたことは当事者間争なく右争のない事実に成立に争のない甲号各証(甲第一号証の一及び同第二号証の一中の各没収部分は偽造として争はない)に証人能村秀雄及び被告代表者本人の各供述等を綜合すると被告会社は主として靴下の製造販売を業とする会社で従業員は数人であるが訴外村尾安弘は昭和三二年三月頃から昭和三五年一二月まで被告会社に事務員として傭われ商品の販売、外交、集金等の事務の外会計事務も社長(代表者)の指図の下になし売掛買掛各帳簿の記入、手形小切手等振出の準備行為、会社及び社長印の保管等の事務を担当して来たが昭和三五年三月頃訴外北岡寿子が会計事務の補助者として入社後も同人の右仕事の手伝いをしていたものであるところ同年一二月訴外石田太良らに誘われ前記の如く被告会社発行の別紙目録記載の各手形を偽造したものであるが原告は右各偽造の事実を全く知らずに右訴外石田及び訴外米田義信らを通して右各手形の割引を依頼されて右手形金を支払ってこれを受取り右各支払期日に支払のため呈示したがいずれも偽造であるとして支払を拒絶された結果右各手形金合計金相当の損害を被ったことを認めることができ右認定を履えすに足る証拠はない。

而して民法第七一五条にいう「事業の執行につき」とは、被用者の職務執行行為そのものには属しないがその行為の外形から観察して、あたかも被用者の職務の範囲内の行為に属するものとみられる場合をも包含するものと解すべきところ、本件においても前記認定の事情の下に行われた訴外村尾安弘の行為は被告の事業の執行につきなされたものと解するのが被害者の保護を目的とする民法第七一五条の法意に副うものであると断断する(同趣旨参考判例昭和三九年(オ)第一一一三号同四〇年一一月三〇日最高裁判所第三小法廷判決昭和三二年(オ)第二八一号同三六年六月九日同裁判所第二小法廷判決、昭和三〇年(オ)第二九号同三二年七月一六日同裁判所第三小法廷判決、札幌高等裁判所昭和三七年(ツ)第一一号同年一一月三〇日判決大阪高等裁判所昭和三五年(ネ)第六六三・一二二一号同三七年二月二八日判決)

そうすると原告の被告に対する本訴請求は理由があり<以下省略>。

<以下省略>

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